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東京地方裁判所 平成元年(ワ)13415号 判決

原告

宮本史郎

(他六名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

川名照美

桜木和代

被告

株式会社ニューラテンクオーター

右代表者代表取締役

山本信太郎

右訴訟代理人弁護士

山田善一

主文

被告は、原告宮本に対し金五万五〇〇〇円、原告山内に対し金六八万七八〇〇円、原告杉尾に対し金一一九万三一五〇円、原告内藤に対し金八四万二四〇〇円、原告伊藤に対し金一二二万三六〇〇円、原告小室に対し金二五万五三六〇円、原告山本に対し金一〇万三五〇〇円、及びこれらに対する平成元年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、別表「請求総額」欄記載の各金額及び平成元年一〇月二〇日(訴状送達の日の翌日)から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告は、バー及びキャバレーを営業する株式会社であり、東京都千代田区永田町二―一三―八にあるホテルニュージャパンの地下においてナイトクラブ「ニューラテンクオーター」を経営していた。

原告らは、いずれも被告に雇用され、同店で営業、整備、会計等の勤務をしていた者(勤続年数は別表「年数」欄記載のとおり)である。

2  被告は、ホテルニュージャパンの取り壊しに伴い、ニューラテンクオーターを閉鎖することにした。平成元年四月七日、被告は従業員全員を招集し、同店の閉鎖を発表し、全従業員を移転先店舗を探して従来どおり勤務させることを約束した。同年五月二〇日、被告は、移転先はクラブ「ニューペントハウス」であることを発表した。

3  原告らは、同年五月二六日までに退職願を提出した。

4  被告は、同年七月七日に別表「振込金額」欄記載の各金額を原告らに退職金として支払った。

5  被告の退職金規定八条によれば、従業員が会社業務の都合により解雇されたとき(七条二号)は退職金支給率表の甲欄、自己の都合により退職するとき(七条六号)は同表の乙欄と定められているが、原告らの退職金を甲欄で計算すると同表「甲欄」欄記載の各金額となる。

二  争点

本件の争点は、原告らの退職が会社都合か自己都合かということと被告が退職金とは別に補償金の支払を約したかである。この点についての原告らの主張は次のとおりである。

1  原告らの退職は、被告の都合によりニューラテンクオーターを閉鎖したことによるものであるから、会社都合によるものであり、被告会社の退職金規定八条の退職金支給率表甲欄によるべきである。

2  被告は退職金に加えて別途数か月の補償金を支払うと約束したのであるから全従業員の平均給与の三か月分相当額である金七〇万円を各原告らに支払うべきである。

第三争点に対する判断

一  本件証拠(略)によれば、次の事実が認められる。

被告は、ホテルニュージャパンの取り壊しに伴い、同ホテルの地下で被告が営業していたニューラテンクオーターの明渡しを迫られていたので、同店を閉鎖することにした。

平成元年四月七日、被告代表者は、全従業員ミーティングにおいて、同年五月二七日限りでニューラテンクオーターを閉鎖する旨発表し、その際、移転先店舗を探して全従業員を従来どおり勤務させることを約束した。

同年五月二〇日、被告代表者は、全従業員ミーティングにおいて、移転先はクラブ「ニューペントハウス」であることを発表した。ニューペントハウスは当時営業中でそこに従業員がいること、ニューラテンクオーターの二・五分の一位のスペースしかなく、勤務時間も長く、その他の勤務条件も厳しいことから、従業員の中に動揺が起こり、移転後の勤務条件や退職した場合の退職金の支給率について質問があった。被告代表者は自分は対外的なことに全力を尽くすので、会社内のことは諸岡寛司営業部長に相談してくれとの趣旨の発言をしたが、具体的な説明はしなかった。

同年五月二六日諸岡営業部長から従業員に対しニューラテンクオーターは解散するから退職届を出してくれとの指示があり、全従業員四一名中原告らを含む二七名が退職届を提出した。

同年五月二七日の最終営業日の点呼において、諸岡営業部長は「解散ということになりましたので、退職金は甲欄で補償金も数か月確保しますので、営業は今日までですが、後かたづけがありますのでね、三〇日まで、最後まで頑張ってやって下さい」との発言をした。

二  退職金の請求について

本件においては、原告らが退職届を提出しており、形式的には被告会社の就業規則七条二号に定める「会社業務の都合により解雇されたとき」の「解雇されたとき」に該当しないようにみえるが、本件条項の趣旨は会社業務の都合により職を失う結果となる従業員に対し特に割増しの退職金を支払うことを定めたものと解すべきであるから、たとえ従業員の方から退職届を提出した場合であっても、会社業務の都合により労働条件に重大な変更があり、従業員がやむを得ず退職届を提出した場合や会社の側が従業員に対し退職届を出すように指導したために従業員が退職届を提出するに至った場合等も含めるべきである。

前記認定事実により判断するに、原告らの勤務場所であるニューラテンクオーターを閉鎖するということは会社側の事情であること、被告が示した移転先であるニューペントハウスは当時他店が営業中の店舗で従業員がいるうえに、ニューラテンクオーターの二・五分の一位のスペースしかなく、ニューラテンクオーターの従業員全部が移転できないと考えることに無理はないこと、移転後の勤務条件について被告から納得のいく説明がないこと、五月二六日になって、諸岡営業部長が解散になったから退職届を出してくれといって、積極的に退職届を提出させたこと、五月二七日に同営業部長が退職金は甲欄で支給すると発言していることを考えると、本件の原告らは自己の都合により退職したものではなく、会社業務の都合によりやむを得ず退職届を提出し、職を失った結果となったものというべきであるから、退職金支給率表甲欄が適用される事案であると判断するべきである。

三  補償金の請求について

補償金について判断するに、前記認定事実によれば、諸岡営業部長が補償金を数か月確保する趣旨の発言をしたことは認められるが、支給額、支給時期、支給方法が明確になった話ではなく、諸岡営業部長の前記発言から直ちに具体的に補償金請求権が発生したとまでは判断することはできない。

四  以上により、退職金を甲欄で支払うべきであるとの原告らの請求は理由があるが、補償金を支払えとの請求は理由がない。

(裁判官 草野芳郎)

別表(略)

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